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Exhibiton View (#1)

"The World is Mine" #1

@Hiromi Yoshii FIve
'04 11/19-12/25
山下麻衣+小林直人/山本桂輔/横谷奈歩

☆企画者・奥村による、展示風景の紹介です☆



六本木駅を出る。
アマンドの横の小道、芋洗坂を下りていくと、
右手に、現代美術の画廊が集まっている、
「Complexビル」が見える(MAP→ココ)。

その左側、1FにHiromi Yoshiiがあるビルの4~5Fに、
会場である「Hiromi Yoshii Five」がある。

んー、「...がある」という表現はあまり
似つかわしくないかもしれない。
文字通り、階段および踊り場がその会場だからだ。

2Fの「TARO NASU GALLERY」、
3Fの「Gallery Min Min」を越え、
階段を上っていく。

report1


なにやら、こんな文字が。
report2


そして、その左上に、
この展覧会がここから始まることを告げる、
一枚のオイル・ペインティング。
report3


山本桂輔の「土なぶり工場製品」シリーズの一点だ
(彼の作品についてはトップページ真ん中一番下の
「日記一覧」をクリック、「山本くん物語」参照されたし)。

彼は、実はペインティングを始めておそらく一年もたってなくて、
で、描き始めた当初から、そこには樹木が登場している。
彼の指向する「豊かさ」を体現し得るモチーフとして、、
おそらく「樹木」やそれが構成する「森」は理想的なのだろう。
たとえば人体ほど、それらには決まった形がない。
うねうねと不定形にくねり、伸びる、フラクタル図形。
大きくても小さくても細くても太くても、木。
それらが寄せ集まってどう絡み合おうと、
どんな形を描こうと、森。

そのしなやかさにときめき、乱されつつ、
山本は深い森に分け入っていく。

で、上のペインティングのどこに木があるかというと、、、
この図像は全体的に時計みたいな形になっていて、
その目盛りが小さな木になってるのだ。
ほんと、ミジンコみたいな木。
って見えないか...。

さて、さらに階段を進む。
report4


4Fに到着。ここからがメイン会場。
山本のペインティングがさらに二枚かかっている。
report5


寄って見ると、、
report6


この左側のペインティングには、
樹木が登場していない。
何やら多彩な色面をもつ直方体たちが、
部屋の隅でいろんな角度で重なって、
積み上がってる。
くすんだ色のせいもあってか、
山本特有の微妙な貧乏臭さ(褒め言葉、失礼)が
醸し出されていて、どこかあやしげな、
ひょっとしてホラーな、そんな感じ。

さらに進む。先は薄暗い。
report7


で、見上げれば流れ星!
report8


山下麻衣+小林直人の「When I wish upon a star.」だ
(くわしくはコチラ)。
report9


暗闇から湧き出るように小さな光が現れて、
それがムズムズムズムズと大きくなり、右下に進んでいく。
実際の流れ星を撮影し(というか、撮影したものを借り受け)、
スロー再生したこの映像に重なる山下の声は、
アーティストとして生きていくことや、
不自由なく食べていくことや、
人間関係のことや、
彼女がふだん不安に思っていたり、
欠落や不足を感じていることに関する願い事を、
その全てを思い通りにするために、
ちょっと早口で唱えている。
内容的には、こちらもまた、
ちょっと貧乏臭い..なんつって、うそ。

でも、変なカッコつけも、
飾り立てることもなく、
素のままの欲望があっけらかんと剥き出されるさまには、
彼女の逞しさのようなものを感じるし、
何よりおバカでありつつちょっと切なくてよい。

そして顔を下げると、
山本のペインティングが点在している。
report10


さっき紹介したペインティングは、
明るい空間に置かれていたけど、
ここでは、スポットライトを浴びて、
薄暗い空間にボワーンと浮かび上がる。

その画面に描かれた図像は、
この弱い光の中で、
いっそうその幻惑性を露にしている。
さらに上る。
report11

report12


けっこういろいろなパブリシティに載っているので、
このイメージを見たことがある人がいるかもしれない。

森の奥深く、
温泉?に半身つかる、奇妙なヒト。
やたら白くふにゃついた体。
立ちのぼる湯気...だけど、その湯気もまた、
樹木の幹のような形に見える。

他のペインティングは、ふつうのキャンバス布に
描かれているんだけど、
これだけちょっと違っていて、
下塗りされていないあらめの布のようだ。
だから、絵具がしっとりと染み込んでいて、
暗闇にじわりと溶け入りつつも、
ざらついた肌で迫ってくるような、
不思議な距離感を作り出している。

そしてさらに進むと、
一番上の踊り場に壁が建っていて、
窓のような口が見える。
report13


ここから先は横谷奈歩の映像インスタレーションだ。

窓を覗く前にまず、向かって右側、
ちょうど人がひとり通れるほどの大きさの、
入口のようなところに入ってみる。
report15


額装された紙に、テキストが見える。
どうやら、「管理人」の告白のようだ。
曰く、このテキストを記したのは
この「アパート」の「管理人」で、
現在このアパートには3人の住人がいるらしい。
彼女(管理人)は、管理人室で、
彼らを静かに見守っているようだ。

しかしこの時点では、それが一体何を意味するのか
判別できない。さらに進んでみよう。
…しかし、本当に狭い。
低い天井と、体をしめつけるような細い通路。
閉所恐怖症の人なら発狂するだろう。

「部屋」に入ってまず僕らの目に入るのは、
これまた小さなブースにぎゅうぎゅうに
詰められた、みっつのモニターだ。
report17

で、ふとその右側に目をやると、
ドアがふたつある。
report18


あまりに狭いせいでちゃんと引きをとって撮影できず、
わかりづらいのだけど、
この「部屋」の右側の角の、
L字状のとこの両面にひとつずつ向き合うようにドアがあって、
それぞれ部屋番号がついている。
どうやらこれは、アパートの部屋の入口らしい。

そしてまた、さきほどのみっつのモニターの
左側の奥に目をやれば、もうひとつドアがある。
report20

report19


このドアにも番号がふられている。

3つのドア。
3つの映像。
モニターに映されているのはもしかすると、
3人の住人の部屋の中の光景なのだろうか。
彼女は、監視カメラを使って、
こうしていつも見守っているのだろうか?

とにもかくにも3つの映像を見ていこう。
まず、向かって右のモニター。
report17a


ふつうの室内風景。
光を浴びて白く飛んだ部屋。
けれど人の姿は見えない。
ただその気配だけが醸し出されている。

窓から射す自然光を透かす、カーテンの袖。
やわらかな光を浴びる、真っ白な布団がしかれたベッド、枕。
そのしわ。
テレビ。
椅子、机。
バスタブには、ひねられた水道から勢いよく流れ落ちる水がたまっていく。
ちり紙がたまり、山となってあふれてるゴミ箱。

そんな部屋の断片のシークエンス。

次に、左上(一番奥)の映像。
report17b


バレエダンサーらしき細身の男性が、
練習している。
ここでもまた、カーテンは自然光を透過しているのだが、
彼が腕を上げて、ゆっくりと自分の背面をくねらせ、
指の先がそこに触れるたび、
それはファサッとさざめいて、光を揺らす。

それにしてもこのダンサーの動きはぎこちない。
でもそのぎこちなさ、微妙っぷりと、
精悍な肉体、やわらかな光が合わさって、
現実的x詩的なムードが放射されている。

そして、もうひとつの映像。
report17c


鉄格子の窓のある部屋に、
たったひとつポツンと置かれたバスタブ。

一見すると、何も動きがないようなのだが、
じっと見ていると、
誰もいないし、水道もついてないのに、
そこには自然と水が湧き出ていて、
ときどき溢れて部屋をつたっているのに気づく。
夏の夜のような、深い青。

そしてバスタブは、
ふだん僕らが触れているそれとは微妙にずれた
(どうずれているかは言語化できないような)、
不思議な形態と質感をしている。

さらに、
この3つのモニターに面したもうひとつの壁に掲げられた、
額の中を見てみよう。
report21


「彼女のコレクション」と題されたそれは、
「管理人」のお気に入りの写真とでもいったところだろう。
額縁の中には、風景がひろがっているのだ。
ただしそれは平面ではなく、奥行きがある。
report22


手前には、白く染められた造花が生い茂っていて、
中景には、おそらくジオラマ用に使われる植物の模型が絡み合い、
その奥の小さなモニターに映像がうつしだされている。

これがその映像。
report22a


これら全体を額縁の正面から眺めると、
一枚の写真のように見える。
これもまた、一見すると静止しているように思えるが、
実のところ、映像にうつる水面だけがかすかに揺れている。
プルン、プルンとゼリーのように。

その薄暗い空間と、不思議な水の動きは、
まるで昔のゴジラやウルトラマンの特撮の風景のような、
不気味さと懐かしさを放射してるように感じる。

この、管理人の「監視室」に飾られた風景写真を過ぎ、
外に出て、さきほどの「窓」を覗いてみる。
report14


この映像に見えるのは、
ワインの瓶、鳥かごと鳥、花瓶と花。
それらの影が、「室内の光」による逆行で影となって、
「窓」にその朧げな姿をうつしているようだ。
そういえば「管理人」のテキストに、
「鳥を飼っている」と書かれてたな。

でもこの鳥は、生身ではないように見える。
その硬質な、変化のない輪郭は、
一定のスピードで、機械的に回転している。
もしかして玩具なのではないだろうか...

でも、そんな問いには何の意味もない。

僕らが、その上下左右から圧迫される偏狭な空間で、
そして「ドア」や「窓」や「フレーム」を通して
対面したのは、ふだんの現実とはほんの少し、
でも決定的にズレた世界だった。
繊細な光の揺動に染められたそこでは、
誰もが孤独で、もしくは不在で、
事物のサイズはどこか狂っていて、
すべてが停止しているようでいて、でも息づいていた。

そう、この鳥も、
仮にこちらの世界ではおもちゃだったとしても、
あちらの世界…管理人さんが住む家では、
確かに「生きている鳥」であるに違いない。


僕らは部屋を離れる。
奇妙な時空の余韻も覚めやらぬまま、
踊り場の「柵」にもたれて、ふーと息をつく。

ふと顔を上げれば、そこには……
report23


さあて何を願おうか。

<了>

#2展示風景→コチラ


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